発酵・保存
漬物
24種
漬物は、塩・糠・酒粕・麹・味噌・醤油・酢のいずれかに野菜や魚を漬け込み、微生物や浸透圧の力で保存性と風味を引き出す加工食品の総称である。京都のすぐき漬けのように塩だけで乳酸発酵させるものもあれば、秋田のいぶりがっこのように囲炉裏の煙で燻してから糠に漬けるものもあるなど、同じ「漬ける」という工程でも土地の気候と入手できる漬け床によって仕上がりが大きく変わる。雪に閉ざされる内陸部では冬を越すための保存食として、寺社の門前や街道沿いでは土産物として発展してきたという。ここでは漬け床の違いと、それぞれの土地の事情を辿る。
土地ごとの料理19
- べったら漬けBettara-zuke東京都 中央区日本橋塩で下漬けした大根を米麹と砂糖で漬け込む、江戸のえびす講で売られた浅漬けが起源とされる漬物。麹の自然な甘さが身上で、日本橋の「べったら市」で今も親しまれている。
- 福神漬けFukujin-zuke東京都大根やなす、れんこんなど7種の野菜を刻んで醤油だれに漬け込む、東京生まれと伝わる漬物。船の食堂でチャツネの代わりに使われたのが縁で、カレーライスに添えられる定番の一品としても知られている。
- ハリハリ漬けHarihari-zuke神奈川県 三浦市切り干し大根より太く切った「割り干し大根」を醤油だれに漬け込む、三浦半島の郷土料理。パリパリとした歯ざわりが名の由来とされ、大根の名産地三浦市で古くからつくられてきたという。
- 飛騨赤かぶ漬けHida Akakabu-zuke岐阜県 高山市・飛騨市飛騨紅かぶを丸ごと塩漬けにする、雪に閉ざされる飛騨地域の保存漬物。皮の色素が発酵とともに身を紅色に染め、山間部で貴重だった塩を節約するための江戸時代以来の製法と伝わる。
- 広島菜漬けHiroshimana-zuke広島県 広島市安佐南区白菜の仲間である広島菜を浅漬けにした、広島市周辺だけで栽培される菜漬け。繊維が少なく歯切れがよいのが特徴で、太田川中州の肥沃な土地で古くから育てられてきたという。
- いぶりがっこIburigakko秋田県 横手市ほか県内陸南部大根を囲炉裏の煙で燻してから米ぬかで漬け込む、秋田の燻製たくあん漬け。天日干しが凍ってしまう雪深い内陸南部で、火の熱と煙を使う保存の知恵として生まれたと伝わる漬物である。
- 松前漬けMatsumae-zuke北海道 松前郡松前町細切りにしたスルメイカと昆布を醤油だれで漬け込む、道南松前町発祥とされる保存食。ニシン漁で獲れた数の子を使ったのが始まりで、正月料理としても親しまれているという。
- 守口漬けMoriguchi-zuke愛知県 丹羽郡扶桑町1メートルを超える細長い守口大根を丸ごと酒粕に漬け込む名古屋名物。愛知の伝統野菜かりもりと同じ、知多半島の醸造がさかんな土地の酒粕文化から生まれたとされる粕漬けの一つである。
- 奈良漬けNara-zuke奈良県 奈良市塩漬けにしたしろうりなどを熟成させた酒粕に繰り返し漬け替える、粕漬けの代名詞とされる漬物。あめ色に仕上がるまで漬け替えを重ねる、手間のかかる製法で古くから知られている。
- 野沢菜漬けNozawana-zuke長野県 下高井郡野沢温泉村信州の冬を越すために大量に仕込む青菜の漬物。野沢温泉村に伝わった天王寺かぶが高冷地の気候で葉と茎だけを大きく育てる変わり種になり、霜に当たるほど甘く柔らかくなるという。
- らっきょう漬けRakkyou-zuke鳥取県 鳥取市福部町らっきょうを塩漬けしたのち甘酢などに漬け込む、鳥取砂丘周辺の名産品。生命力が強く砂丘地でも育つらっきょうが、江戸時代の参勤交代で持ち帰られたのが栽培の始まりと伝わる。
- 三五八漬けSangohachi-zuke福島県 二本松市塩・麹・米を三対五対八の割合で混ぜた床に野菜を漬け込む、福島県二本松市周辺の麹漬け。江戸時代からのこうじ食品で、田植えの時期のおかずとして重宝されてきたという。
- 千枚漬けSenmai-zuke京都府 亀岡市篠町聖護院かぶを薄切りにし、昆布と酢で漬ける京都を代表する漬物の一つとされる。長期保存を目的とせず繊細に仕上げるのが特徴で、江戸時代に御所の料理人が考案し漬物商として広めたと伝わる。
- しば漬けShiba-zuke京都府 京都市左京区大原なすときゅうりを赤しそとともに塩漬けにする、京都を代表する漬物の一つとされる。大原の赤しそがしみ出す紫色と酸味が特徴で、建礼門院に献上された逸話から「紫葉漬け」の名が転じたと伝わる。
- すぐき漬けSuguki-zuke京都府 京都市北区上賀茂かぶらの一種すぐきを塩だけで漬け、独特の酸味を発酵させる京都を代表する漬物の一つとされる。上賀茂神社の社家が栽培を始めたと伝わり、江戸時代には他村への持ち出しも禁じられた、かつては御所へ献上される品だったという。
- すんき漬けSunki-zuke長野県 木曽地域(木曽町ほか)赤かぶの葉を塩を一切使わずに乳酸発酵させる、木曽地域だけの無塩漬物。海から遠い山深い谷では塩が貴重品だったため、それを節約する生活の知恵として生まれた発酵食品だと伝わる。
- つぼ漬けTsubo-zuke鹿児島県干した大根を甘めの味付けで漬け込む鹿児島の漬物。カレーライスの添え物としてもおなじみで、大根を原料にする漬物として東京のべったら漬けや秋田のいぶりがっこと並び語られることもあるという。
- わさび漬けWasabi-zuke静岡県 静岡市葵区有東木わさびの茎や根を刻んで酒粕と練り合わせる粕漬け。徳川家康が門外不出とした有東木の栽培地から広まったとされ、明治22年の静岡駅構内での販売が定番土産の始まりという。
- 山形のだしYamagata Dashi山形県 村山地域・置賜地域なすやきゅうりなどの夏野菜と薬味を刻み、醤油で和える山形の常備菜。生のまま手軽に食べられるスピード料理として、暑さの厳しい村山地域を中心に親しまれてきたという。
発祥の土地を特定しないもの5
- 粕漬けKasuzuke塩漬けした野菜を熟成させた酒粕に繰り返し漬け替える漬物の総称。酒粕の糖分とうまみが染み込みあめ色に仕上がるとされ、酒蔵が多く酒粕を得やすい土地で古くから根づいてきたという。
- ぬか漬けNukazuke米ぬかに塩を加えた「ぬか床」に野菜などを漬け込む発酵漬物の総称。ぬか床の乳酸菌と酵母の働きで独特の酸味が生まれ、日々かき混ぜて育てる家庭の味として親しまれてきたという。
- 高菜漬けTakana-zukeからし菜の仲間である高菜を塩と唐辛子で漬け込む、九州各地の漬物。浅漬けの新漬けと半年かけて乳酸発酵させる古漬けがあり、刻んでご飯や炒め物にもよく使われるという。
- たくあんTakuan干した大根を米ぬかと塩で漬け込む、糠漬けの代表格とされる漬物。江戸初期の僧沢庵宗彭が考案または好んで食べたとの説が広く知られ、土地ごとの大根の性質に合わせた型が各地に残っている。
- 梅干しUmeboshi梅を塩に漬けたのち天日で干す、日本の食卓に古くからある保存食。和歌山県南部では年貢を逃れるためやせ地に自生していた梅の栽培が奨励され、産地として広がっていったと伝わる。